さて、いよいよ今日は故宮博物院。
さすがに一大観光名所だけあって朝から多くの観光客が来ている。
故宮の中は広く、見どころもたくさんあるが、めざすは書画を展示している武英殿。
そして張択端「清明上河図」。
武英殿に向かう途中にこんな看板があった。
「爆満」という文字が見える。
中国の至宝「清明上河図」を目あてに来る人がたくさんいるのだろう。
今日は長丁場になるのは覚悟していたので、朝食はしっかり食べた。
宿泊したハワードジョンソンパラゴンホテルは朝食も充実していて、朝食会場も建物の中庭を利用した吹き抜けになっているので開放感がある。
料理もおいしいし、1日だけというのはもったいない。
焼きそばが特に美味。
張択端「清明上河図」は、香港や上海で展示された時は待ち時間3~4時間と聞いていた。そして、2012年に東京国立博物館に展示された時は90分待って見ることができた。今回も3時間くらいは待つかなと思いながら列に並んだ。
林の向こうに並ぶ人たちがかすかに見える。
列に並んだのは午前10時過ぎぐらいだった。
1時間ほど経過して武英殿の門まで並ぶ列の3分の1ほど進んだので、これなら3時間で入れるか
なと思っていたが、そこから先が長かった。
結局、武英殿の門の近くまで来たのがなんと午後4時過ぎ。
その間、交代でトイレに行ったり、前の日に買ったパンを立ったままかじったりして、ひたすら待ち続けた。
途中、ワゴンで図録を売っていたので、それを買って、パラパラ見たりもしていた。
ようやく門の中に入ったのが午後5時過ぎ。本来なら故宮博物院閉館の時間だ。
それでも5時までに並んだ人は中に入ることができるということなのだろうか。
そもそも今日は何時まで開館しているのだろうか。入口の看板や公式サイトには何も書いていないし、中国語が喋れないので周りの人にも聞くわけにもいかなかった。
そのうちに列に割り込もうとした人と、並んでいる人たちとの口論や、割り込みをきちんと止めない係員への怒声とそれにやり返す係員の怒声が入り交り、一時あたりは騒然となった。
こんなのに時間をとって、せっかくここまで並んだのに入れなかったらどうしようと不安になったが、前の方で並んでいる若い女の子たちのグループは、その騒ぎを見ながら「しょうがないわね」という感じくすくす笑っていた。
不安げに時計を見たりしていたら、隣に並んでいた若い男性が英語で話しかけてきた。
私が「絵を見ることはできるのでしょうか。」と聞くと、「大丈夫です。今日は夜10時まで開館しています。」と言う。
私は「そうですか。これで安心しました。」といってお礼を言った。
親切な人が隣にいて本当に良かった。
中に入ってからも、列からはみ出しそうになったら、「こちらに並んでも見ることができますよ」と中国人女性が日本語で教えてくれた。海外で困ったときに親切に声をかけてくれるととてもうれしい。
他にも館内で並んでいると、やたら親しげに中国語で話しかけてくる若者がいたので、申し訳なさそうにつたない中国語で「私は日本人です。」と伝えたら、「そうか日本人か。」と言いながら、それでも終始ニコニコして話しかけてきた。
きっといい人なのだろう。カタコトでも中国語ができれば会話もできただろうにと思う。
さて、武英殿の門の中には入ったが、ここから武英殿の建物までさらに長い列があった。
どうやら中の混雑を避けるために、入口で入場制限をしているようだ。
ようやく建物の入口の前まで来たとき、今まで何ともなかった空一面に黒い雲が広がり、稲光がして大粒の雨が激しく降ってきた。
私たちはすでに建物の庇の下まで来ていたので雨に濡れなかったが、後ろに並んでいる人たちは係員の誘導で建物の庇の下に移動した。
そしてようやく建物の中に入ったのが午後6時。待つこと8時間!
武英殿は清代に建てられた建物で、内装はそのまま残してガラスケースの中に美術品が展示されている。さきほどの黒い雲と雷雨のせいで、まるで時空を超えて清代にタイムスリップしたような感覚になった。
中に入っても押すな押すなの状態で、「清明上河図」にはなかなかたどり着けず、たどり着いても人に押されてゆっくりと見れる状況ではなかったが、それでもとりあえず「清明上河図」を見るという今回の旅行の目的を達成することができた。
武英殿には他にも宋、元、明の山水画など中国絵画の名品の数々が展示されているので、それだけでも十分見ごたえはある。それでも他の作品を見ている人はあまり多くない。
どうやら「清明上河図」だけ見たら満足して帰る人が多いようだ。
おかげで、こんなに素晴らしい展示をゆったりと見ることができた。
(館内は撮影禁止なので、作品の素晴らしさが伝えられないのは残念)
他の作品を見終わって「清明上河図」の列を見てみると、並んでいる人も随分と少なくなってきたのでもう一度並ぶことにした。
結局、2回並び、心ゆくまでじっくりと「清明上河図」を味わうことができた。
そのあとは武英殿の敷地内にある左右両方の建物内の展示も見て、すっかり満足して故宮博物院を出た。時間は8時過ぎになっていた。雨はもうすっかり止んでいた。
そして夜間だけ特別に開いていた門を出て、故宮沿いに地下鉄の駅まで向かっていたら、しきりに中国語で話しかけてきた若者が私たちの前を小走りに人ごみの中に入って行くのが見えた。
あいかわらず楽しそうな感じだった。この時間になったということは、「清明上河図」だけ見てすぐに帰るのでなく、中国書画をじっくり見ていたということなのだろう。
ホテルに戻り、近くのスーパーで買ったパンとビールと干しブドウで軽い晩酌。
翌日は朝5時半にホテルを出て、8時45分発のチャイナエアで北京を発ち、約3時間のフライトで羽田空港に到着した。
東京から片道3時間飛んだだけで入り込んだ全くの異次元空間。
まるで夢を見ていたような3日間だった。
(北京編おわり)