2014年3月3日月曜日

「世紀の日本画」後期・特別観覧会レポート

日本美術院再興100年 特別展 「世紀の日本画」後期・特別観覧会に参加しましたので、今回はそのご報告をしたいと思います。
 


「世紀」とは、 日本美術院が大正3年に再興してから現在までの100年、その「 1世紀」という意味。つまりは再興院展の歴史を遡って100年をたどるというものです 。
長い歴史には、狩野芳崖、横山大観、菱田春草、小林古径、前田青邨、安田靫彦、小倉遊亀、平山郁夫ら近代日本画の巨匠たちが名を連ねています。この展覧会では全集などで目にしたことのある有名な作品と、 最近の作品がバランス良く配置されていました。
   
いくつかお気に入りの作品を紹介しますと、
   
狩野芳崖「悲母観音」。江戸・木挽町狩野家に入門し、狩野派の伝統を学びながら、 明治初期、フェノロサに見いだされ、 日本画革新運動の強力な推進者となった芳崖。
この作品はそれまでの日本画の伝統をふまえつつ、 西洋画の表現を随所にとりいれた近代日本画の幕開けともいえる傑作です。 慈愛に満ちた観音の表情はとても美しく、幼子が近代日本画の誕生のようにも見えました。
   
横山大観「屈原」。すくっと立って前を見る屈原の姿。鬼気迫る顔面の表現。凄まじい迫力です。背景は吹き荒れる風。草木は強く揺れ、2匹の鳥は屈原と同じように上目遣いで睨んでいます。天心を深く尊敬していたという大観。明治31年という天心が、東京美術学校校長を追われた年に描かれたこの作品は、大観は天心を屈原に重ねて描いたともいわれていますが、大観の天心への強い思いを感じる作品でした。
   
橋本雅邦「龍虎図屏風」。    雅邦は、 木挽町狩野家邸内で生まれ、御用絵師としての道を歩み始めますが、 明治時代に入ってからは東京美術学校の教員を務め、岡倉天心らと日本美術院を創立するなど、明治期の日本画の主導的な役割を果たしました。
本作は、明治28(1895)、 第四回内国勧業博覧会の出品作。発表当時、そのあまりの新しさゆえか、評価は優劣こもごもであったそうですが、 昭和30年には、明治の美術 品として初めて重要文化財に指定されています。実際に見てみると、まさに「龍虎対決」! 画面の大きさとともに、対峙する2匹の龍と虎のすさまじい迫力、荒れ狂う波と降り注ぐ雨の中、雷鳴や風の音が聞こえてきそうな見事な作品でした。
   
菱田春草「四季山水」。日本のふるさとの原形を描いた、澄んだ色彩がとても美しい作品。 後期は秋冬の場面で日本の自然や風物が春草らしいやさしい表現で 詩情豊かに描かれています。彼はこの作品を描いた翌年に36歳で亡くなりますが、もっと長く生きていればと悔やまれます。
   
木村武山「小春」。 武山もこのような作品を描くのだなと新鮮な驚きを感じましたが、彼はこの頃花鳥画に傾倒していたようです。琳派の影響、中でも風にしなる木々や草花の様子は、抱一の最高傑作「夏秋草図屏風」をイメージさせました。

今回の白眉とも思えたのが、岩橋英遠の「道産子追憶之巻」。 北海道出身の日本画家・岩橋英遠氏の作品です。絵巻形式で全長29メートルにも及び, 北海道の美しい四季が描かれています。「絵のうえでいろんなことをやったつもりでも、 生まれて20年間を過ごした北海道の体験が基準になってしまう。」 という画家の言葉に、生まれた場所が人へ与える影響の大きさと、ふるさと北海道への深い愛情を感じました。
   
本展覧会の最後の展示は、再興院展50回目の記念に描かれた「日本美術院血脈図」です。騎乗の天心の周囲に横山大観、菱田春草、下村観山ら多くの画家たちがシルエットで描かれています。
急激な西洋化の荒波が押し寄せた明治という時代の中で、日本の伝統美術の優れた価値を認め、 日本美術の保護・再興、さらには国内外への普及に力を尽くした天心。
天心の指し示す日本画の理想に向かって、これからも多くの画家が続いていくのだろう、と思わせてくれる作品でした。   

「世紀の日本画展」は41() まで開催です。近代日本画の巨匠たちの代表作がまとめてみられるこの貴重な機会をお見逃しなく!

最後に、この展覧会を記念して、岡倉天心 生誕150周年 没後100周年記念に制作された映画『天心』」が特別に上映されますのでご案内を。
岡倉天心役の竹中直人はじめ皆さん適役で、北茨城五浦での厳しい生活や、画家たちの新しい日本画への情熱、その人となりがとてもよく描かれた秀作です。
春草が病で五浦を離れる場面などは特に感動的で、映画だけでも充分見ごたえがありますが、映画に登場する画家たちが描いた作品と併せて見ると、より楽しめると思います。この機会にぜひご覧ください。<N>
       
映画『天心』上映
会場  東京都美術館講堂
日時  2/22(土)、3/19(水)、3/21(金・祝)
各日 11:00開演(開場10:30)14:30開演(開場14:00
入場料  一般1300円、シニア(60歳以上)1000
入場券は、東京都美術館講堂前で当日10:00より販売。
「世紀の日本画」展の観覧券(半券可)提示で100円割引になります。