ひとつは西宮市大谷記念美術館で開催中の「とら虎トラ」展。
甲子園球場がオープンして来年で90年になることを記念して開催されているもので、パンフレットのキャッチコピーが「若冲・応挙・芦雪からタイガースまで、トラ大集合!」となっている。
私は地元・横浜ベイスターズのファンで、決してタイガースファンではないが、大好きな虎の絵が見ることができるので、この時ばかりは阪神タイガースに感謝。
ロビーには応挙の水呑みの虎がお出迎え。
館内で写真撮影ができるのはここだけ。虎の横に座り記念写真をとっている親子もいた。
展示室は4つあり、1階の第一展示室は「甲子園の歴史と阪神タイガース」。
ここはさっと見て、同じく1階の第四展示室「岸派と近代の虎」に移った。
この展示室でのお気に入りは岸駒の初期のかわいい系の虎と、少しおさえ気味の迫力を感じる岸連山の六曲一双の「龍虎図屏風」。
次は2階に移り、第三展示室「長崎派の虎」。
長崎派というとどぎつさが特徴だが、流し目の可愛い虎もいたし、まるで想像上の動物のように描かれていた虎もいてけっこう楽しめた。
そして最後はこの展覧会のメイン、第二展示室「近世の虎」。
もちろん応挙の水呑みの虎もいる。他にも探幽、若冲、芦雪と江戸時代を代表する絵師たちの虎の絵が集まっている。
この展覧会では展示してある虎の総選挙を行っていて、受付で投票用紙をもらい、すべての作品を見たあと、投票所で投票するようになっている。
中間結果速報は美術館のホームページで随時発表していて、5月5日まででは応挙の「水呑虎図」が第一位になっていた。
さて、どの虎に投票しようか、「水呑虎図」では面白みがないな、少しひねりを入れようかなどと迷った末、ユニークさをとって英一蝶の「豊干寒山拾得図」の虎に投票した。
これは同じく出展されている芦雪や久隅守景の「四睡図」のパロディ。
「四睡図」は、中国・唐時代の豊干禅師とペットの虎、奇僧・寒山と拾得が仲良く眠っている図だが、英一蝶の作品は、豊干禅師が乗っていた虎がきゅうに伸びをしたので、豊干禅師があわてて虎から落ちそうになっているところを、寒山と拾得が一人は手をたたき、一人は両手を上げてはやし立てているというもの。
「重たいな」と言いたげに大きく口をあけて伸びをしているときの虎の表情がなんともいえず微笑ましい。パロディ好きの英一蝶らしい作品。
投票したあとミュージアム・ショップに寄ったが、この作品の絵はがきはなく、ここで紹介できないのは残念。
大谷記念美術館は庭園も素晴らしい。
もう一つは京都国立博物館の「狩野山楽・山雪」展。
つつじの海に浮かぶ京博。
お目当ての一つは山楽の「龍虎図屏風」。
4年前に同じ京博で開催された「妙心寺」展以来だが、いつ見てもそのすごさに圧倒されてしまう。
ピカピカの金箔の上に風とともに空中に現れた龍、それを振り返って睨み返し、咆哮する雄の虎。ゴージャスな桃山時代の雰囲気そのものだ。これほど豪華で迫力のある「龍虎図」は他にない。
これが「とら虎トラ」展に出品されていたら、文句なしにこの作品に投票するのだが。
(これはミュージアム・ショップで購入した絵はがき)
この展覧会は、全8章のうち冒頭の2章以外はすべて山雪作品のオンパレードで、「山雪とその師・山楽」といってもいいくらいだが、「龍虎図」に関していうと山楽に軍配が上がる。
作品番号42、山雪の二対の掛け軸は、龍が現れても迷惑そうに水を飲んでいる虎で、戦意は感じられない。もちろん龍など何するものぞ、という余裕を感じることもできるが。
また、作品番号78の「龍虎図屏風」は、龍も目玉が上を向いて「あれ、ここどこだろう」といった表情だし、虎も前足をお行儀よくそろえて、目はぎょろっとしてやはり「なんか変なのが出てきたけど、どうしよう」という顔。
しかし他の作品は細部へのこだわり、過剰なまでのデフォルメ、などなど山雪ワールドを展開しているし、「長恨歌図巻」のようにアイルランドから里帰りしたり、もともと襖の表裏だったものがニューヨークとミネアポリスに分かれてしまい、50年ぶりに対面したり、もう二度とこれだけたくさんの山雪の作品を見ることはできないのではないかと思う。
パンフレット裏面
毎年恒例となったゴールデン・ウィークの関西旅行。
この時期は気候もいいし、普段は公開しない文化財の特別公開もある。
やはりゴールデン・ウィークの関西ははずせない。
(「とら虎トラ」展は5月19日(日)までで、「山楽山雪」展は5月12日(日)までです。両方見るには来週末がラストチャンスです。)
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