先週の金曜日、東京藝術大学大学美術館で開催中の「夏目漱石展の美術世界展」のブロガー特別内覧会に参加してきました。
内覧会は18時30分に始まり、最初に大学美術館 古田亮准教授のユーモアをまじえたミニトークで見どころや主な出展作品についての解説をいただきました。
(主な内容)
・ 今回の展覧会では漱石の頭の中にある絵画的イメージが、どのように小説に映し出されているか見ていただきたい。
・ 『こころ』に出てくる渡辺崋山の「黄粱一炊図」は東京のみの展示
・ この展覧会のために制作された作品が2点あるのでこれも見どころ。
「虞美人草屏風」(『虞美人草』に酒井抱一作として出てくるがおそらく架空の作品)
「森の女」(『三四郎』の登場人物・原口画伯の作品)
・ まず見ることから初めてください。そして作品を読んでいただきたい。
・ 漱石自筆の作品もあります。辛口の批評をする漱石ですが、自分の作品となると
首をかしげたくなります。ここまで絵を見てくると疲れるので、息抜きにどうぞ。(笑)
などなど、とても楽しいトークで、今回の美術展に対する期待が高まります。
古田准教授のミニトークのあとは20時30分まで自由鑑賞。
まずはお目当ての日本画。
渡辺崋山の「黄粱一炊図」は、蛮社の獄でとらえられた崋山がこの絵を描くために死期を一週間繰り延べたという作品。
涙なしには見られない作品です。
他にも俵屋宗達、円山応挙、伊藤若冲、池大雅、与謝蕪村、岸駒、と江戸時代を代表する絵師たちの作品がずらりと並び、解説を読んでいくと、漱石がそれぞれの絵をどう感じていたかがよくわかり、絵に対する興味もますます深まっていきます。
実は西洋画にはあまり関心がなかったのですが、漱石ゆかりのイギリスの画家の作品がいくつか出展されていて、ターナーの絵全体にかかる光と靄(「金枝」)、リヴィエアーの夕日に染まる空(「ガダラの豚の奇跡」 日本初公開だそうです)、ミレイの暗闇(「ロンドン塔幽閉の王子」)などなど、ラファエル前派などの西洋美術に関心のある方にとっても見逃せない作品が並んでいました。
それに漱石と同時代の横山大観、寺崎広業の「瀟湘八景」も見ごたえ十分でした。
特に寺崎広業という方は、私が知らなかっただけかもしれませんが、初めて作品を見た方でした(この作品に対する「子供の様な大人のする丹念さ」といった漱石のコメントも面白かったです)。
こういった新たな出会いがあるのも美術展の楽しみのひとつです。
展覧会の図録もとても充実した内容です。
鑑賞後にじっくりと漱石の作品と今回の出展作品との関係について学ぶことができ、美術評論としても読むことができます。
この展覧会は7月7日までで、その後は静岡県立美術館で7月13日(土)から8月25日(日)まで巡回展が開催されます。
「文豪」夏目漱石を美術という観点からとらえ直す、これまでに(これからも?)ない貴重な企画です。
漱石ファンはもちろん、そうでない方も十分楽しめる内容ですので、この機会にぜひご覧になることをおすすめします。〈N〉
(今回撮影した写真は美術館より特別な許可を得て撮影しています)